近代和風 古民家 リノベーション(構造補強含む)(神戸市灘区)
神戸市灘区にて、延床面積300m2ほどの 古民家のリノベーションの 計画を 構造計画とともに行いましたのでここに記載していきます。
Contents
改修予定の概要パース
1階の上から見た全景 室内観パースです。北側が浴室になっています。
2階の内観パースです。応接間が、吹き抜けになっていて、勾配屋根まであり、開放的な空間になっていることがわかります。
外観の全景パースです。
外観の全景パースです。
応接間吹き抜け部分
1階書斎部分
改修予定の概要平面図
改修1階平面図
改修としては、東部分の応接間が吹抜けとなり、既存の2階の床を取り払います。上部は、キャットウォークとして、2階床の剛性を損なわないように改修を行います。浴室もリッチなものとなります。その他エレベーターも設置します。
改修2階平面図
2階は、寝室と休憩部屋と、吹抜けの上部となっています。
■既存建物の調査
建築年代は、昭和初期とのことで、建物は、築100年程かと思われます。
まずは、建物の調査を行い、その後、軸組図等を採取する 本格調査を3日間行い、計画をまとめあげていきます。
既存建物を 豪邸としてリノベーションする仕事となります。
①既存建物の写真
南側外観
南側(東部分外観)
西側外観 西側に見えている部屋は、大広間和室となっています。
基礎は無筋コンクリートでした。
1階玄関東側の応接間も、しっかりと天井がはってあり、立派なものであったことがわかります。
2階部分の和室です。かつては、本勝手の立派な座敷であったことがわかるかと思います。
②既存建物の平面図
既存1階平面図
既存2階平面図
③既存建物の伏図
さて、追加で現状の建物の状態を確認するべく、伏図と軸組図と寸法をとっていくことにしました。
基礎伏図です。基礎は、外周部に無筋コンクリートのものが存在しているだけで、建物内部は、なしの状態です。
地面の上に石が存在し、その上に柱がたっている石場建基礎 ということになります。基礎が安定していないため、非常に不安定な構造体といえるかと思います。
1階床下は、はがして確認できなかっため、判明しているところを中心に記載しています。180や200の大引きに対して、90の根太が大きめのスパンで入っていました。
2階床伏せ図です。
小屋伏図です。大きな丸太が、小屋組みとして、力強い印象で屋根を支えていました。
④既存建物のX軸組図(南北に建物を切った構造図面)
X1通 軸組図 西側の外壁の軸組を表しています。
X2通 軸組図 平屋部分キッチンぶの軸組図です。
X3通り軸組図 平屋の屋根部分の架構がわかるかと思います。平屋部分は単純です。
X4通 軸組図
X6通軸組図 2階がのってきます。
X6通り 軸組図 2階の小屋組の状態と1階下屋部分の架構がわかるかと思います。小屋組みをみてもらいますと、ちょうどY5のところに梁があわさっており、この下に存在する柱は 削除できないことがわかると思います。
X7通 軸組図 床下部分は単純な石場建ての柱となっており、上部構造体を支えているのがわかるかと思います。
X10通り 軸組図
X11通 軸組図 北側下屋部分が2重の梁となっており、二階の荷重を支えているのがわかるかと思います。
小屋組は、牛梁による和小屋構造となっているのがわかります。Y5部分の下の柱は削除できないことがわかると思います。
X13通り軸組図 Y5部分の小屋組牛梁を支える桁もとても重要な桁であるということがわかります。
X14通り 軸組図
X15通り軸組図 Y5の柱が重要であることがわかると思います。
総じて、2階小屋組みの牛梁を支える Y5 の桁と 柱が 重要であるという 分析ができるかと思います。
X16通り 軸組図 平面図東側の座敷にあたる部分で、1階2階とも 壁のない スカスカの構造となっています。このあたりが近代和風と思われる構造体です。
⑤既存X軸組図 まとめ
2階平面図において Y5の通りがとても大切なのがわかります。
小屋伏図においても、梁がY5通りであわさっていることがわかると思います。
改修計画においてもY5通りの 桁と柱の位置を確認して、除去しないように検討していくことが必要になります。
当初の改修平面計画で、赤丸部分の 階段の横の柱は邪魔ということで取り去る予定でしたが、調査後、この柱は残すことに決定しました。
2階改修平面図でも、Y5のラインはとても重要であることがわかります。
X軸組図
X17通り 構造図
⑥既存Y軸組図(東西に建物を切った断面図)
Y軸組図(東西方向)
Y1軸組図
Y1a 軸組図
Y2通り軸組図 2階がのってきています。 単純な架構であることがわかります。
Y3通り軸組図 1階の洋室1部分は、梁をついでいます。よって、洋室1からキッチン部分にかけて増築をしていたのではないかということがうかがえます。
Y4通り 軸組図 キッチン部分平屋も単純な和小屋で屋根を支えているのがわかります。
⑦既存Y軸組図 調査後のまとめ
Y5通り、2階の梁が東西に架けられており、とても重要な架構の通りであることがわかります。このy5通りの2階の梁の重量を支える柱がとても重要となり、X11とX14の柱が改修時に外せないものになるであろうことがわかります。
いわゆる赤丸の柱が改修時も外せない柱となります。
Y6通り 軸組図
Y7通り軸組図
Y8通り軸組図 2階の柱を多くが1階の直下の柱で受けており、素直な構造体となっていることがわかります。
Y9通り 軸組図
図面をおこして、構造を解析していくと、Y5通りの桁とそれを支える柱(特にX11とX14の柱)が重要であるということがわかるかと思います。
⑧調査の写真
・洋室1の梁柱の食害 写真
雨漏れにより、木が腐り、そこに、蟻が食害をおこしたと思われる箇所が存在しました。ここは、補修する必要があります。
具体的には、梁をパイプサポートなどでジャッキアップして柱を変えるなど、注意して工事を行う必要があります。
雨漏れが見られると思います。
先ほども記載しています通り、このY5の桁と それを支えるX11の柱です。とても重要な通りと柱になります。これが1つ存在しないだけで、屋根が落ちてきます。改修計画には、1階ともに注意して行う必要があります。
Y5の通りは、上部の梁をしっかりと支えているのがわかると思います。
Y5の通りです。
1階の北側の 改修時浴室にする部分の部屋の梁組です。梁が2重になっており、おそらく増築したのではないかと思われます。1階洋室1や和室3などは増築しており、X6、X10 X11通りY3通り等無理ある既存
構造計画(梁が二重)→これは現状のまま変更しない方針。
1階の キッチン 食堂 平屋部分の 小屋組みです。豪壮な梁がかけてありますが、今回は、改修で天井を貼りますので
基本的には改修でなにか手をかけることはなくなります。
内部は石場建て基礎となっていました。どのように基礎を補強するのか とても重要になります。
⑨調査のまとめ
X14通りですが、X13通りの壁とずれて存在しています。軸線を通したほうが良いため、X14通り Y6-8に壁を設置して、下部に基礎、大引き、二階の梁を設置したほうがよいかと思われました。
・一般診断法による耐震診断と補強計画
この建物を耐震の構造計画をおこなうにあたり、簡易診断 一般診断 精密診断 限界耐力計算 とあります。
限界耐力計算は、伝統建築物によく用いられる手法ですが、2階が剛床である必要があります。また天井高さが3.5m以上の時に用いられます。ダンパーを多く用いるような町家の改修や 寺院の改修に使われます。今回、ELと階段廻りと 応接間の吹抜と ボイドとなっている場所が多いため、これは、適しないという解釈です。また精密診断は、一般診断よりも 開口部の精密な計算 水平剛性を加味した計算 各部の劣化を考慮した計算 が可能ですが、基本的には すべての耐力壁のしたに基礎とアンカーが必要になります。これは、外周部は基礎が現状存在していますが、内部は玉石基礎としての解釈となるため、適しません。以上の理由から 一般診断法で、この建物の補強計画を行うのがよいという判断です。一般診断法は、水平剛性を加味した計算がでないところが弱点ではありますが、あるていどの間隔で壁が配置されているならば問題ない という解釈になっています。
■耐震診断(一般診断法による)
南側から見た倒壊の様子 診断の評点は0.16ととても低い数値になっており、補強を行うのに、かなりの壁量が必要になろうかと思います。壁量の少ない 1階の東部分に対して、倒壊していく様子がわかるかと思います。
北側から見た倒壊の様子
評点は0.16と 1階2階 ともに低い数字になりました。
■ 補強計画
緑色の部分が補強を行う予定の壁です。
一般診断法で 構造計画をおこなうにあたり、評点を どの程度にするかが 補強計画の ポイントになります。
耐震等級3であるならば、1.5、耐震等級2であるならば1.25、耐震等級1であるならば1となります。
等級3となるとかなり補強する必要がでてきます。等級2にあげるのも、かなり補強が必要な状況です。
等級3(1.5以上)等級2(1.25~1.5)等級1(1~1.25)
基礎と壁の配置計画で、大きく評点がことなります。様々なパターンを計算しましたが、結局、南面の開放性を優先させる計画とするため、等級1にて改修をおこなうことで、施主と合意しました。南面の壁量を減らし、開放的にしたいという要望が施主から大きく存在したためです。
- 補強計画 評点1~1.25(吹抜け及び応接間廻り壁配置 3つのボイド下基礎設置)
■改修計画の特徴
・耐力壁は、1,2階東西南北方向に、バランスよく配置し、特に吹抜けの応接間と吹抜けの階段部分の周辺に重点的に配置しています。
・1階リビングの南隅柱付近の柱と梁の腐食に関しては、新たに柱と梁を設置して対応します。その上部屋根瓦は、やり替え、下地の更新も行う計画です。
・南面に開口部が多く、壁をほとんどつくれないため、北側に大きく偏心してしまいます。
・EVと階段廻りと応接間と吹抜けが3か所存在している。
東の応接間は、2階の床を取り去って、吹き抜けの応接間にします。
・黄色い部分が吹抜けとなります。構造用合板24mm以上を床梁に直張り 4周釘打ちN75 @150以下とする。
施工にて吹抜け以外を剛床とする。
- 下屋部分は一部 天井に構造用合板をはるべきではあるが、基本的にははらない。
- 二階天井部分は構造用合板と火打ちにて水平剛性の確保。小屋組み及び母屋及び屋根のの補強は基本的には行わない。(重量をそれほどみていない)
- できるだけシンプルな架構計画 X13 X14通りの壁と基礎増設の計画
2階直下に壁がない場合は、1階天井で水平構面をとり、1階の他の壁に力を流す仕組み
二階耐力壁の下に1階耐力壁がない場合は1階の梁にかかる荷重が大きく仕口にかかる荷重も大きい。
筋交いは極力使わない(伝統構法では土壁と筋交いの地震時の動きが異なるといわれているため)。
■補強図面
①平面図
1階改修平面図です。壁は基礎の仕様にてAとBに分けています。外周部分は、無筋のコンクリート基礎が存在していますが、家屋内部は全く基礎が存在していない状態です。
2階改修平面図です。2階は、壁を合板で補強する部分と金物だけで補強する部分とに分かれます。
②伏図
基礎の補強の図面です。内部耐力壁の下は、筋交いの足固めとします。外周部の無筋コンクリート基礎は、有筋コンクリート基礎を増打ちし、無筋と有筋基礎を結合させることで有筋基礎として、計画を行います。
ベタ基礎配筋図面です。家屋内部は、鉄筋コンクリートのベタ基礎として、コンクリートを打設します。耐力壁下は、筋交い足固めを設置し、柱と基礎は、金物で結節します。建物は、ベタ基礎にて対応するのが最も効果的な耐震対策になるであろうと思います。
その他、柱脚の金物の位置を示した図です。
1階の床下の補強平面図です。
2階床の補強伏図です。2階は 吹き抜け部分が3か所出てくるため、それ以外の部分を剛床にして、しっかりと補強する必要があります。2階の床は、剛床とするため、吹抜けとなるEV、応接間、階段部分以外は構造用合板24㎜ N75@150を敷設し、火打ちを打ち、各所に梁を追加します。1階の天井と2階の天井の一部には、構造用合板12mmをN50@150で敷設し、床と天井の補強により、水平剛性を高める計画とします。その他各所に梁を追加し、仕口部分は羽子板ボルトを設置する計画とします。(特にY5通り)柱頭と柱脚には、金物をバランスよく設置していきます。鉛直構面である耐力壁、水平構面である基礎、2階床、1階天井、2階天井に十分な補強を行う計画とし、それらを結合する仕口、柱頭、柱脚部分に金物を設置することで建築基準法が規定する大規模な地震力に耐える構造補強計画としています。
2階天井に関しては、天井をはり、上部荷重を下部に流せるように補強します。小屋組みに関しては、予算の兼ね合いもあり、今回は特に大きな補強は行いません。Y5の通りに桁が東西にかかっているため、注意して、柱脚と頭に金物を設置し補強します。
③Y軸組図
Y1通り 軸組図 基礎廻りを補強するぐらいです。
Y2補強軸組図 応接室を耐力壁で補強します。土台と梁と柱を構造用合板で結節していきます。
重要なY5通り軸組図です。桁がY5通りにはしっかりのってくるため、金物で柱とも結節していきます。Y4通りは、1階部分はしっかりと壁の補強を行います。
1階の東西方向はしっかりと耐力壁の補強を行います。
こちらも耐力壁の補強を東西方向で行います。
④X軸組図
X1軸組補強図です。基礎部分を補強しています。
X3軸組図 平屋部分は、大きく補強を行うところはないです。
X6軸組図 一部耐力壁の補強を行います。
X7,8通 軸組補強図 2階小屋組みを補強するために、一部梁を増設しています。
X10,11通り 軸組補強図 X10通りの 1階部分の梁が2重になっているところは、安定しているため、簡単に金物で補強するぐらいとします。
X13,14軸組補強図 耐力壁でしっかりと補強します。
X15,16軸組図 X15通りは2階小屋組みを補強するために梁を増設しています。
X17軸組図 耐力壁で補強します。
⑤詳細図
基礎の補強方法です。 無筋の基礎を、有筋の基礎で補強します。
外周部の耐力壁の仕様図面です。土台と基礎がアンカーで結節されていることが重要です。
2階の耐力壁の仕様です。
1階の耐力壁の仕様です。石場建の建物であったので、全体的に、ベタ基礎を敷き、上部耐力壁は、筋交い足固めで床下部分を結節しています。柱と基礎は、PL6で結節し、土台と基礎もアンカーボルトにて結節します。埋込長さは250mm以上
これで、建物と基礎が緊結されます。
以上 補強計画となりました。
■まとめ
伝統木造の建物は、図面を採寸し、構造的な弱点を見定めて、補強していくことが重要であり、最初の調査にて、軸組図 伏図 部材寸法 劣化部分の調査など 建物の詳細な情報を集めていくことが最も重要な作業となり、その部分が正当にできて、構造計画と改修計画を適正に行うことができるようになります。